骨粗鬆症外来

骨粗鬆症とは

骨粗鬆症のイメージ写真

WHO(世界保健機関)では、「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義しています。わが国では1996年に骨密度測定値を取り入れた骨粗鬆症の診断基準が作成され、立った姿勢からの転倒か、それ以下のわずかな外力で生じる脆弱性骨折が椎体(背骨)あるいは大腿骨近位部にある場合、その他の部位に脆弱性骨折がある例では骨密度が若年成人平均値(young adult mean:YAM)の80%未満の場合、脆弱性骨折のない例ではYAMの70%未満の場合を骨粗鬆症とする診断基準が設定されました。
日本人女性の骨粗鬆症有病率は50歳代7%、60歳代30%、70歳代37%、80歳代42%と、60歳代で急激に高くなります。女性においては50歳前後で閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下に伴い、閉経後10年ほどの間に骨量は著しく減少し、骨粗鬆症へと進展してゆきます。男性の場合はもともと骨量が多く、女性のような急激はホルモン変化もないため、骨量が減少してゆくスピードは女性より緩やかですが、70歳以降になると骨粗鬆症の割合が増加してきます。
2005年の年齢別人口構成をもとにすると男性で300万人、女性で980万人、すなわち65歳以上の方の3人に1人に骨粗鬆症患者がいると推定されていますが、治療を受けているのはおよそ20%に過ぎないと言われています。近年、骨粗鬆症検診も行われつつありますが、まだ実施率や受診率が低く、検診間隔が長いなどの問題が指摘されています。

骨粗鬆症による骨折について

骨粗鬆症は骨折の最大の危険因子です。骨粗鬆症による骨折はわずかな外力で生じる脆弱性骨折であり、椎体、大腿骨近位部、下腿骨、橈骨遠位端、上腕骨近位部、肋骨などの部位で生じやすいとされています。椎体骨折は最も頻度の高い骨粗鬆症性骨折であり、70歳代前半の25%、80歳以上の43%に椎体骨折が認められています。椎体骨折を生じると背腰部痛を起こすだけでなく、椎体変形により背が縮んで背中が丸くなり(円背)、そのため肺や腹腔を圧迫して心肺機能の低下や逆流性食道炎など内臓疾患の原因ともなります。また大腿骨近位部骨折では移動能力や生活機能が低下して寝たきりの原因となるため、骨折後1年での死亡率が10%に達することが知られています。さらに一度脆弱性骨折を起こすと、再骨折のリスクが2~4倍に高まり骨折の連鎖と言われています。

骨粗鬆症の危険因子しては加齢、女性、脆弱骨折の既往、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙、ステロイド薬の使用、関節リウマチ、アルコールの過剰摂取などが知られています。男性の骨粗鬆症では原因となる基礎疾患が約半数に存在し、その筆頭は慢性閉塞性肺疾患(COPD)とされています。

診断について

骨粗鬆症の診断には骨に関する評価が必須であり、骨折を起こしていない状態での骨強度の指標として骨密度の値が最も有用とされています。先の危険因子を有する閉経期前後・閉経後の女性、65歳以上の女性、危険因子を有する50歳以上の男性、70歳以上の男性などが骨密度測定の対象として適当とされています。20歳時に比べ身長が2cm以上低下している、壁を背にして立ち踵とお尻と背中を壁につけた状態で後頭部が壁につかない、背中や腰が1-2年で曲がってきた場合などは骨粗鬆症による椎体骨折の外見上の徴候である可能性があります。

骨密度の測定方法

骨密度の測定方法として、踵骨(かかとの骨)で超音波により骨評価を行う定量的超音波測定(quantitative ultrasound: QUS)法が最も普及していますが、骨量そのものを評価している検査法ではないことや誤差が大きいことから、厳密な確定診断や治療効果の判定には使用することはできないとされています。また、手の指のエックス線撮影によるmicrodensitometry(MD)法は骨粗鬆症の診断には用いることはできますが、測定部位である手指骨には治療薬の標的となる海綿骨の割当が少ないため治療効果の判定には不適とされています。dual energy X-ray absorptiometry(DXA デキサ)法はエネルギーの低い2種類のエックス線を用いて骨密度を測定する方法で、骨代謝が盛んな海綿骨が多く含まれ、また骨折による生活への支障が大きい腰椎と大腿骨近位部での測定が可能です。この方法による骨密度の低下は新規骨折発生との相関性に優れているため骨粗鬆症診断に適しているだけでなく治療効果の判定にも有用とされ、骨粗鬆症の診断と治療に最も適した検査法とされています。
前述のごとく脆弱性骨折の有無と骨密度の低下によって骨粗鬆症が診断されますが、背腰部痛、身長低下、円背などがある場合のほかに、椎体骨折の約3分の2は無症状で骨折に気づかれていないため胸腰椎のレントゲン撮影による確認が推奨されています。また、糖尿病、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、栄養吸収障害、薬剤性など続発性骨粗鬆症の基礎疾患にも注意が必要です。血液検査ではクレアチニン、カルシウム、リン、血糖値などを調べます。また、骨は1年から4年をかけて古い骨を吸収し、新しい骨に置き換える新陳代謝を生涯に渡って行っており、血液中の骨吸収マーカーであるTRACP-5bや骨形成マーカーであるP1NPなどの骨代謝マーカーを測定することで、古い骨を吸収する破骨細胞と新しい骨を作る骨芽細胞の働き方を調べ治療薬の選択や治療効果の判定に用います。

骨粗鬆症の予防と治療の目的

骨粗鬆症の予防と治療の目的は骨折を予防し骨格の健康を保って、生活機能と生活の質を維持することです。まず栄養管理では適切なエネルギーと栄養素の摂取が基本です。骨粗鬆症の治療時にはカルシウムを多く含む食品(牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆・大豆製品)、ビタミンDを多く含む食品(魚類、きのこ類)、ビタミンKを多く含む食品(納豆、緑色野菜)、果物と野菜、タンパク質(肉、魚、卵、豆、牛乳・乳製品など)などの摂取が推奨されており、逆にリンを多く含む食品(加工食品、一部の清涼飲料水)、食塩、カフェインを多く含む食品(コーヒー、紅茶)、アルコールなどの食品の過剰摂取は避けた方がよいとされています。

運動による予防

週に2-3回、1時間程度のウォーキングなどの運動することは骨密度増加と転倒予防により骨折予防効果が期待できます。背筋運動では背筋筋力の強化とともに椎体骨折の予防効果があります。またスクワット、片脚立ち、踵上げなどのロコモーショントレーニングは下肢筋力やバランス強化によって転倒予防に効果があります。適度な日光浴はビタミンDを合成し、腸からのカルシウムの吸収を促進します。ガラスは紫外線をあまり通さないため、外出や戸外で過ごす機会を作りましょう。夏なら木陰で30分、冬なら1時間程度が目安です。日焼け止めやアームカバー・手袋などでの過度な紫外線防止はビタミンDが不足する原因となる可能性があります。

薬による治療

脆弱性骨折の有無や部位、骨密度の値、大腿骨近位部骨折の家族歴などの条件によっては薬物による治療が推奨されます。骨粗鬆症治療薬には主に骨吸収を抑制する薬剤と骨形成を促進する薬剤があり、骨量減少が骨吸収亢進型と骨形成低下型のどちらが主体かによって薬剤を選択します。
骨吸収抑制を主たる作用とする薬剤としては骨に取り込まれるて破骨細胞の骨吸収活性を抑制するビスフォスフォネート、エストロゲンに似た構造でエストロゲン受容体に作用して骨吸収抑制効果を発揮する選択的エストロゲン受容体修飾薬(selective estrogen receptor modulator:SERM サーム)、破骨細胞にあるカルシトニン受容体に作用してその機能を抑制するカルシトニン薬、破骨細胞の分化や活性化に必須なサイトカインRANKL(ランクル)に対するヒト型IgG2モノクローナル抗体製剤である抗RANKL抗体薬などがあります。骨形成促進薬としては骨芽細胞機能を活性化する副甲状腺ホルモン薬が使用されています。骨芽細胞による骨形成を抑制するとともに、破骨細胞による骨吸収を刺激するスクレロスチンを阻害するヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体は骨形成を促進するとともに骨吸収を抑制する薬剤です。

閉経に伴う骨粗鬆症

閉経に伴うエストロゲンの欠乏は破骨細胞の活性化を誘導し、加齢に伴うカルシウム吸収能の低下も骨密度の低下の要因となります。骨粗鬆症治療薬の選択については長期的な戦略が必要です。女性の場合、閉経前後から70代前半まではエストロゲン欠乏が骨粗鬆症の主な原因であるので、骨に対するエストロゲン作用の低下を補うためSERM(エビスタ®、ビビアント®)を主体に治療を行います。SERMは骨代謝回転を過度に抑制しないために長期にわたる服薬が可能で。さらには乳癌発生の抑制効果も期待できます。カルシウムバランスがマイナスに傾いて骨吸収が亢進している場合には、転倒・骨折予防効果も認められている活性型ビタミンD誘導体(ワンアルファ®、エディロール®)を使用します。70代になると加齢が骨量減少・骨脆弱性の主な病因となるため骨吸収を抑制するビスホスホネート(ボナロン®、アクトネル®、ベネット®、ボノテオ®、リカルボン®、ボンビバ®、リクラスト®)を主体に使用します。若年者でも骨折リスクが高い場合やSERMによる改善が不十分な場合にはビスホスホネートの使用を検討します。骨折の危険性が非常に高いと判断される場合には強力な骨折抑制効果をもった副甲状腺ホルモン薬テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)を使用します。ステロイド骨粗鬆症や男性骨粗鬆症に対しても有効と考えられています。特に骨折リスクの高い方には骨形成促進と骨吸収抑制の両作用を持つ抗スクレロスチン抗体ロモソズマブ(イベニティ®)も選択肢となります。
骨粗鬆治療薬は骨代謝のサイクルに沿って作用するので、効き目が出てくるのには時間がかかります。代表的な内服薬であるビスホスホネート製剤で骨折予防効果を得るには1年以上の服薬が必要とされていますが、治療継続率が1年間で約半分という現実があり問題視されています。

参考

  1. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会: 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年度版. 2015
  2. 田中伸哉: 最新の骨粗鬆症治療薬 日本老年医学会雑誌 56:136–145, 2019