頭痛外来
危険な頭痛について
どのような頭痛で病院へゆくべきか
頭痛はごくありふれた症状であり、しかもご本人にしか辛さがわかりにくい症状でもあるため、どの程度で医療機関を受診すべきか迷っておられる方も多いと思います。しかしながら、次のような頭痛の中には命の危険に直結する病気に伴うことがあるため注意が必要です。
救急車要請あるいは救急外来受診を要するレベルの頭痛が含まれる状態
突然の頭痛・雷鳴様頭痛
何時何分何秒と言えるくらい急に起こり、かつ持続しているもの。突如発症で1分以内にピークに達する頭痛。脳動脈瘤が破れた瞬間に強烈な頭痛に襲われるくも膜下出血、動脈壁が剥がれる脳動脈解離などが代表例。
神経脱落症状を有する頭痛
頭痛とともに物がだぶって見える(複視、眼球運動障害)、半身のしびれや運動麻痺があるなどはくも膜下出血や脳出血の疑いがあります。
今まで経験したことがない頭痛・いつもと様子の異なる頭痛
痛み方や経過がいつもと違う場合や人生最悪の頭痛ではこれまでと別の原因で頭痛が生じている可能性があります。逆に何年も前からしばしば生じているような頭痛であれば緊急性は低いと思われます。
発熱・頭痛・嘔吐
細菌性髄膜炎やウイルス性髄膜炎・脳炎などを考慮します。
早期の医療機関受診が勧められる頭痛
頻度と程度が増していく頭痛
頭蓋骨内の圧力が徐々に高くなってゆく状態が最も危惧されます。慢性硬膜下血腫では数日から数週、脳腫瘍では数週から数ヶ月かけて頭痛の頻度と程度が増すことがあります。
50歳以降に初発の頭痛
脳腫瘍、体重減少・側頭部の痛みでは巨細胞性動脈炎などの可能性を考えます。
頭位の変化による頭痛
体を起こすと頭痛が生じ、寝ると軽減する場合は低髄液圧症候群、逆に頭を下げたり息こらえで頭痛が出て、座ると頭痛が軽減するときは脳腫瘍や脳静脈洞血栓症など頭蓋内圧が高い状態や副鼻腔炎などが疑われます。
一方で、以前から繰り返している同じ性質の頭痛でも、痛みが強くなってきたり、回数が増えたり、頭痛薬を使う回数が増えてきたといった変化があり、仕事や生活に支障が出てきているようであれば、ご自分にどのような種類の頭痛が生じていて、どのような対処法があるかと知るうえでも医療機関で相談されることをお勧めいたします。
片頭痛
片頭痛は学校や職場などでの活動に支障を及ぼし生活の質を大幅に低下させる"疾病"です。日本での有病率は8.4%で、とくに30-40歳代女性では5人に一人を悩ます疾患です。家族内発症が多いとされ、脳を包む硬膜の血管周囲にある三叉神経が刺激されて炎症を起こすため痛みが生じると考えられています。
片頭痛の特徴
頭痛が始まる直前に目の前にギザギザする光のようなものが現れて見えにくくなったり(閃輝暗点)、肩が凝ったりする前駆症状である"前兆"が20-30分間現れることがあります。また、頭痛の2-48時間前に倦怠感、気分高揚、うつ、空腹感などの警告症状である"予兆"が現れることもあります。痛み始めは心拍と同期する拍動性の痛みが特徴です。必ずしも頭の片側だけが痛むわけではなく、両側が痛むこともあります。光、音、においなどに過敏となり、悪心・嘔吐などを伴います。体を動かすと悪化するため、発作中は暗く静かなところでじっとしていることを好み、寝込むこともしばしばです。痛みは数時間で治まりますが、2-3日続くこともあります。睡眠不足・過多、精神的緊張、月経周期、曜日、天候。温度差、陽光、人混み、アルコール、カフェイン、空腹などが誘因となります。また、経口避妊薬、閉経後のホルモン補充療法、鼻粘膜充血除去薬、プロトンポンプ阻害薬などは片頭痛を悪化させる可能性があります。
片頭痛が生じているときの治療薬
発作が起こると光、音、においなどに過敏となり、動作で症状が悪化するため、なるべく暗く静かなところで安静を保ちます。カフェインを含む飲料で頭痛が和らぐことがあります。痛みが比較的軽度の場合には通常の消炎鎮痛薬の早期服用で対処可能です。
痛みが強い場合には片頭痛発作時専用薬のトリプタンを用います。スマトリプタン(イミグラン®)、ゾルミトリプタン(ゾーミック®)、リザトリプタン(マクサルト®)、エレトリプタン(レルパックス®)およびナラトリプタン(アマージ®)の5種類が用いられています。水なしで内服できる口腔内崩壊錠や吐き気が強い場合にも使える点鼻薬や皮下注射薬などの剤形があり、およそ80%程度に効果があると言われています。片頭痛の痛みが始まったタイミングで、内服薬では1回1錠を内服します。痛み始めに使うことで最大限の効果が得られます。効果が不十分な場合には、2時間開けて(ナラトリプタンは4時間以上)追加ができます。クリアミン®のようなエルゴタミン製剤や他のトリプタンとの併用は24時間以内はできません。血管収縮作用があるため、少し胸苦しく感じる副作用がありますが時間が経てば治まります。心筋梗塞や狭心症のある方には使えません(リザトリプタンは透析中やプロプラノロールと併用での使用はできません)。経口薬ではリザトリプタンとエレトリプタンの即効性が高いと言われています。ナラトリプタンは持続時間が長いため頭痛が遷延しやすい月経時片頭痛の際などに使用を考慮します。
頭痛が片頭痛なのか緊張性頭痛なのか、はっきりしない場合も多いですが、動くことが苦痛になり、頭を振ったり、深々とお辞儀をしたときに頭痛が増悪すれば、片頭痛と判断してトリプタンを内服します。間違って緊張性頭痛時に服用しても通常問題はありません。トリプタンは個々の患者さんで効き目が異なることがあり、効き目が弱いときには他の種類に変更するとよく効く場合があります。制吐剤を鎮痛薬やトリプタンと併用すると効果が高まるとされています。
片頭痛の予防
片頭痛発作が月に2回以上あるいは6日以上ある患者では、予防療法の実施について検討してみることが勧められています。生活面では食事や睡眠をしっかりとる、光・音・におい過敏に配慮し、部屋や家具の配置を見直す、照明を電球色や暗めの設定にする、部屋の内装を落ち着いた配色にする、遮光カーテン・遮音シート・消臭機能クロスなどを導入するなど環境改善を考慮しましょう。サングラス・アイマスク・耳栓などの活用も良いでしょう。暗いところでのスマートフォン使用には注意が必要です。
予防薬としては副作用が少ないカルシウム拮抗薬の塩酸ロメリジン(ミグシス®)が第1選択薬となっています。3ヵ月程度をめどに服用し、頭痛が治まっていれば、1~2週間に半量ずつ減らしていきます。頭痛発作が起こりやすい時期だけ短期的(数日から1週間程度)に使用することもできます。
片頭痛と緊張型頭痛の合併する例にはアミトリプチリン(トリプタノール®)、脳の過敏が目立つ例には抗てんかん薬のバルプロ酸(デパケン®、セレニカ®)、高血圧症合併例や妊娠中の発作予防薬としてプロプラノロール(インデラル®)などが用いられています。その他に一部の降圧剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、マグネシウム製剤、ビタミン剤などを併存疾患に合わせて用いる場合があります。さらに呉茱萸湯、桂枝人参湯、釣藤散、葛根湯、五苓散などの漢方薬の有効性も報告されています。
妊娠・出産・授乳と片頭痛
前兆のある片頭痛ではエストロゲンを含む経口避妊薬は原則禁忌とされ、その他の避妊法が勧められています。妊娠に対する薬剤の影響は妊娠週数によって異なります。月経が28日周期であれば、月経が遅れた時点で薬剤を中止すれば通常は問題が少ないと言われています。妊娠初期(4~11週末)は胎児の器官形成期で催奇形性への影響のため可能な限り薬剤の使用は控えます。
妊娠12週以降では薬剤の胎児への移行による胎児毒性が問題となります。妊娠中は片頭痛が軽減することが多いこともあり、片頭痛予防薬は用いずに発作時にのみ服薬する製剤での対処を試みます。予防が必要な場合にはβ遮断薬のプロプラノロール(インデラル®)を用います(プロプラノロールはリザトリプタンの血中濃度を上昇させるため併用はできません)。ロメリジン(ミグシス®)やバルプロ酸(デパケン®、セレニカ®)などの予防薬は使用できません。妊娠中の片頭痛発作には、頓挫薬としてアセトアミノフェン(カロナール®)が勧められています。アセトアミノフェンが効果不十分の場合には、比較的安全性が高いイブプロフェン(ブルフェン®)を用いますが、妊娠後期には胎児毒性が問題となるため使用を控えます。妊娠初期におけるスマトリプタン、ナラトリプタン、リザトリプタンなどのトリプタン使用での有害事象の増加は報告されておらず、重症の場合にはトリプタンも使用可能です。
授乳期の急性期治療薬としても妊娠中と同様、アセトアミノフェンが第一選択薬となります。重症の場合、スマトリプタン(イミグラン®)では使用後12時間あければ授乳が可能です。またエレトリプタン(レルパックス®)は母乳への移行がきわめて少なく安全と考えられています。
小児の片頭痛
大人と異なり頭痛の時間が短かったり、頭痛よりも腹痛や嘔気、嘔吐などの腹部症状が強かったりなどの特徴があります。普段元気なのに、時々青ざめてじっと静かにしているというようなときには片頭痛を疑って良いかもしれません。また、他人から見て本人の辛さが伝わりにくいため、発作時には保健室で休ませてもらうよう、予め学校と相談しておくと良いでしょう。小児片頭痛の急性期治療薬は、ドンペリドン(ナウゼリン®)のような制吐薬やアセトアミノフェン・イブプロフェンなどの鎮痛薬が有効かつ安全とされています。予防薬としてはロメリジン、アミトリプチリンなどが用いられます。10歳以下の小児で、腹部症状や乗り物酔いが強い例ではシプロヘプタジン(ペリアクチン®)が有効とされています。
新規片頭痛治療薬ガルカネズマブ(エムガルティ®)
2021年4月、片頭痛治療にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide: CGRP)受容体拮抗薬ガルカネズマブ(エムガルティ®)という新しい選択肢が増えました。CGRPは片頭痛に関連の深い三叉神経に存在し、脳血管拡張作用をもつアミノ酸結合分子(ペプチド)です。脳髄膜が何らかの刺激を受けてCGRPが放出されることで片頭痛発作が始まると考えられています。ガルカネズマブ(エムガルティ®)はCGRPが受容体に結合する前にCGRPと結合して効果の発現を阻害します。
ガルカネズマブ(エムガルティ®)は頭痛が起こったときに使用する急性期治療薬ではなく、月1回皮下注射する予防薬です。ガルカネズマブ(エムガルティ®)投与により、片頭痛日数が減る、急性期治療薬を使う日数が減るなどの効果が期待できます。臨床成績として日本人反復性片頭痛患者459例を対象とした国内第II相試験(CGAN試験)では本剤120mg(初回のみ240mg)投与群で6ヶ月後の月当たりの片頭痛日数が6~8日から5~6日に減少し、プラセボ群と有意差が認められています。反復性片頭痛患者及び慢性片頭痛患者462例(日本人42例を含む)を対象とした国際共同第III相試験(CGAW試験)でも本剤120mg(初回のみ240mg)投与群で3ヶ月後の月当たり片頭痛日数は13~14日から4~8日へ減少し、プラセボ群と有意差が認められています。これらにより、片頭痛のガルカネズマブ療法ガイドラインではガルカネズマブ(エムガルティ®)は、「反復性および慢性片頭痛に対する予防薬としての安全性と有効性が複数の大規模プラセボ対照ランダム化二重盲検試験によって実証されている。また、既存の片頭痛予防治療薬で治療が奏功しない症例に対しても有効性が確認されている(強い推奨、エビデンスの確実性:A)」と結論付けています。
他の治療薬との違い
これまでの発作急性期治療薬であるトリプタン(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン)は有効性の高い片頭痛治療薬であることに変わりはありませんが、血管収縮作用があることから心筋梗塞・脳梗塞など虚血性疾患の既往のある患者には使用できないこと、ノンレスポンダーと言われる効果の乏しい患者群が存在すること、さらに最近では薬剤使用過多による頭痛の原因となるケースも散見されるため使用量が制限されることなどの問題が指摘されています。これに対してガルカネズマブ(エムガルティ®)は血管収縮作用を持たないため心筋梗塞・脳梗塞など虚血性疾患の既往のある患者にも使用可能であること、既存の片頭痛予防治療薬で治療が奏功しない症例に対しても有効性が確認されていることなどが注目されています。
ガルカネズマブ(エムガルティ®)の副作用
ガルカネズマブ(エムガルティ®)の副作用は主に注射部位疼痛(10.1%)や注射部位反応(紅斑、そう痒感、内出血、腫脹等)(14.9%)など軽微なものですが、アナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹等重篤な過敏症反応があらわれることがある(頻度不明)とされています。
ガルカネズマブ(エムガルティ®)は高価な薬剤です。保険診療での使用が可能ですが、3割負担での薬剤費(自己負担額)の目安は初回投与時(2本)約27000円、2ヶ月目以降(1本)約13500円/月となります。このほかに、診察料や検査料などの医療費が別途かかります。
厚生労働省から公表されたガルカネズマブ(遺伝子組換え)の最適使用推進ガイドラインでは、投与の要否の判断にあたっては、以下の 1~4のすべてを満たす患者であることを確認するとしています。
- 国際頭痛分類第3版(ICHD-3)を参考に十分な診療を実施し、前兆のある又は前兆のない片頭痛の発作が月に複数回以上発現している、または慢性片頭痛であることが確認されている。
- 本剤の投与開始前3カ月以上において、1カ月あたりのmigraine headache days(MHD:片頭痛又は片頭痛の疑いが起こった日数)が平均4日以上である。
- 睡眠、食生活の指導、適正体重の維持、ストレスマネジメント等の非薬物療法及び片頭痛発作の急性期治療等を既に実施している患者であり、それらの治療を適切に行っても日常生活に支障をきたしている。
- 本邦で既承認の片頭痛発作の発症抑制薬(プロプラノロール塩酸塩、バルプロ酸ナトリウム、ロメリジン塩酸塩等)のいずれかが、下記①〜③のうちの1つ以上の理由によって使用又は継続できない。
①効果が十分に得られない
②忍容性が低い
③禁忌、又は副作用等の観点から安全性への強い懸念がある
また、使用については以下の要件を満たす施設において使用すべきとされています。
- 片頭痛の病態、経過と予後、診断、治療(参考:慢性頭痛の診療ガイドライン2013を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)が本剤に関する治療の責任者として配置されていること。
医師要件
- 医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、頭痛を呈する疾患の診療に5年以上の臨床経験を有していること。
- 本剤の効果判定を定期的に行った上で、投与継続の是非についての判断を適切に行うことができること。
- 頭痛を呈する疾患の診療に関連する以下の学会の専門医の認定を有していること。
- 日本神経学会
- 日本頭痛学会
- 日本内科学会(総合内科専門医)
- 日本脳神経外科学会
- 二次性頭痛との鑑別のためにMRI等による検査が必要と判断した場合、当該施設又は近隣医療機関の専門性を有する医師と連携し、必要時に適切な対応ができる体制が整っていること。
当クリニックでの処方について
ガルカネズマブ(エムガルティ®)の使用を希望しての受診を考慮されている患者さんは、頭痛ダイアリー、お薬手帳、医療機関からの診療情報提供書(紹介状)などを用意されると良いでしょう。
緊張型頭痛
頭痛の中で最も頻度が高く、一般人口の30-78%の有病率と言われています。緊張型頭痛は頭蓋骨周囲の筋肉の持続的緊張が原因となる頭痛で、両側後頭部を中心とした圧迫感や締めつけ感が特徴とされ、眼の奥や側頭部にも痛みが及んできます。前頭筋、側頭筋、咬筋、翼突筋、胸鎖乳突筋、板状筋、僧帽筋など筋肉の圧痛を伴います。長時間のデスクワーク、目の酷使、首や肩のこり、運動不足、精神的なストレス・うつなどが要因と考えられています。
片頭痛でも前兆や随伴症状として肩凝りを生じることがありますが、片頭痛発作時は日常的な動作で頭痛が増悪するのに対し、緊張性頭痛では悪化しないことが両者の違いです。頭を振る、深々とお辞儀するなどの動作で痛みが増すときは片頭痛、変わらないときは緊張型頭痛と判断します。光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみとされています。
鎮痛薬の効果が低いことがあり、薬剤の使用過多で頭痛を悪化させていることもあります。このようなタイプでは神経伝達物質のセロトニンが減少しているため、痛みに弱くなっていると考えられています(薬剤使用過多による頭痛)。
発作時の治療薬
筋肉の緊張を和らげるために筋弛緩薬や抗不安薬を用います。不安感が強いときにはエチゾラム(デパス®)が有効ですが、依存性があるため短期間での使用が望まれます。痛み止めとして非ステロイド性抗炎症鎮痛薬(NSAIDs:アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)を用いますが、痛みのある時だけ用いることが大切で、漫然とした使用は逆に痛みを増強してしまう恐れ(薬剤使用過多による頭痛)があるため月に10日以内の使用に留めましょう。鎮痛薬の使用過多が疑われる場合には中止が必要です。
予防
まず姿勢を良くすることを心がけましょう。前かがみでデスクワークを行うような姿勢を続けることは筋肉に大きな負担をかけます。姿勢を正して骨格で体を支えることが大切です。また、筋肉をほぐして疲労をためないように定期的なストレッチを意識的に取り入れましょう。日本頭痛学会のウェブサイトには片頭痛にも効果がある頭痛体操のやり方(1日2分の頭痛体操)が示されています。月に1-2回でも散歩やジョギングなどの有酸素運動を行うこともお勧めです。日頃の体のメインテナンスが重要と考えましょう。予防薬としては抗うつ薬のアミトリプチンの低用量投与(5-30mg)が有効とされています。副作用として眠気、口渇、便秘、体重増加などが生じる可能性があります。緑内障の方は使用できません。不眠がある場合には就寝2-3時間前の服用すると良いようです。効果があれば数ヶ月継続し、症状に合わせて減量・中止を検討します。
新たな治療の可能性
これまで医療機関で行われてきた緊張型頭痛の診療では、危険な疾患を除外するため頭部のCTやMRIを行い、画像検査で異常がなければ鎮痛薬・筋弛緩薬・抗不安薬などの処方が行われることが一般的です。これらの診療で痛みの軽減に一定の効果があることは確かですが、数多くの方々が整体やマッサージなどの施術での痛みの緩和を求めていることも事実ではないかと考えています。もともと頭痛で病院へゆくということ自体が敷居が高い、習慣がない、時間が取れないといった事情もあるとは思いますが、即効性のある治療効果が得られにくかったということが最も大きな要因と考えています。そこに登場してきたのが超音波ガイド下ハイドロリリース(筋膜リリース)注射です。発痛源となっている筋肉を特定し、超音波で病変部を見て確認しながら生理食塩水などの液体を注射します。適切な注射を行うと注射とほぼ同時に筋肉がほぐれ痛みが軽減されます。痛みの発生源である筋肉が特定できれば、適切なリハビリによる姿勢矯正、筋力増強や生活習慣の改善へと導かれます。緊張型頭痛の診療の新たな局面を開く治療法として期待されています。
薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH)
- 以前に効いていた頭痛薬が効かなくなった。
- いろいろな頭痛薬を飲んでいる。
- 頭痛薬を飲まないと不安、やめられない。
- 頭痛薬を飲んでいるのに、だんだん頭痛がひどくなっている。
- 連日の起床時からの頭痛
もともと人の体には痛みに耐えるメカニズムがありますが、頭痛薬を多用すると痛みに対する感受性が高くなり、今までより軽い頭痛でも痛みが強く感じるようになることがあります。そのため毎日毎日頭痛を感じるようになり、頭痛の痛み方もひどく感じるようになりします。このことがさらに頭痛薬を増やすという悪循環が生じます。
薬剤の使用過多による頭痛の有病率は、おおよそ1%で中高年女性に多くみられます。慢性頭痛の有病率は2~5%とされており、薬剤の使用過多による頭痛の占める割合は3番目に高いと推定されています。
以前から頭痛疾患を持つ患者において、頭痛薬を3ヵ月を超えて定期的に服用(治療薬により片頭痛治療薬トリプタンなどでは1ヵ月に10日以上、非ステロイド性抗炎症薬などでは15日以上)した結果として1ヵ月に15日以上起こる頭痛と定義されています。非頭痛患者が鎮痛薬を連日服用しても薬剤の使用過多による頭痛を生じることはまれで、緊張型頭痛や片頭痛自体が薬剤の使用過多による頭痛の素因と考えられています。頭痛薬を3ヶ月以上飲んでいるのに頭痛がある日のほうが多い場合には薬剤の使用過多による頭痛を強く疑います。頭重感とともに朝を迎え、頭痛が悪化しないように鎮痛剤を飲んでから仕事に向かうという生活が続きます。
薬剤の使用過多による頭痛の原因薬剤は市販の鎮痛薬が85%を占めているとされ、鎮痛効果を増強するため追加されている無水カフェインなどの成分による身体的依存が発症に影響していると考えられています。また、頭痛薬の飲み過ぎが良くないことを知らなかったり、医師や薬剤師からの指導が少ないことも一因と指摘されています。近年片頭痛治療薬トリプタンが原因となる薬剤の使用過多による頭痛が増加し、2019年使用上の注意に「薬剤の使用過多による頭痛」に関する事項が追加されました。
治療の原則は、①原因薬剤の中止、②薬物中止後に起こる頭痛への対処、③予防薬投与の3つです。原因薬剤を徐々に中止するより即時に中止したほうが治療成功率が高いとされます。原因薬剤中止により頭痛がすぐになくなるわけではなく、逆にリバウンドとしての中止後の数日間は両側性拍動性頭痛に襲われることが多いことは十分に知っておく必要があります。この期間をいかに対処できるかが成功の鍵となります。基盤に片頭痛を持つことが多いため、予防薬としてロメリジン(ミグシス®)、バルプロ酸(デパケン®、セレニカ®)、アミトリプチン(トリプタノール®)などを使用します。頭痛が改善するまでの日数は10日前後とされています。成功者は朝起きてみると頭痛がないことに気がついた、普通の生活を思い出したなどの感想を述べられています。
薬剤の使用過多による頭痛にならないためには、市販の鎮痛薬でも無水カフェインなどを含まない単一成分の鎮痛薬を選択するようにしましょう。月10日以上頭痛薬の服用が必要な場合は頭痛に詳しい医師に相談しましょう。
頭部神経痛
後頭神経痛
頭部神経痛の代表例で、後頭神経の支配領域に一致して後頭部に、ズキズキ、ツンツン、針で刺されるような、電気がビリっと走るようななどと表現される、数秒から数分の短い痛みが断続的に生じます。運動不足や姿勢不良などから後頸部の筋緊張が高まり神経を圧迫することが一因と考えられていますが、誘因が明らかでないことがしばしばです。首を動かすと痛みが走ったり、神経の走行部位を押すと痛みが再現されることがあります。また、神経の感覚が過敏となり、髪をとかしたり、枕などに触れることでゾワゾワするような違和感(アロディニア)を感じたり、頭皮に触れても感覚が鈍くなっていたりすることもあります。基本的には数日で症状は治まりますが、痛みの強い場合には鎮痛剤と神経活動を良くするビタミンB12(メチコバール®)を内服します。まれに非常に強い痛みが生じる場合があり、神経痛の特効薬であるカルバマゼピン(テグレトール®)やプレガバリン(リリカ®)などや局所麻酔薬による神経ブロック注射などが必要になることもあります。
帯状疱疹
子供の頃に感染し潜伏した水ぼうそうのウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)の再活性化によって生じ、体表のどこにでも生じる可能性があります。頭部では片側の前額部などに帯状にヒリヒリするような痛みを生じます。痛みは強いことが多く、患部を手で押さえるような仕草がみられます。皮膚の神経支配領域に一致して小さな多数の水疱が生じていれば診断は比較的容易ですが、病初期の2-3日間には発疹がみられません。まれに発疹を伴わずに神経障害を起こすこともあり注意が必要です。頭部での発症では視力障害や顔面神経麻痺などを引き起こすことがあります。また約2割が発疹が治まったあとに痛みが残る帯状疱疹後神経痛に移行します。ウイルスの増殖を抑えるために発疹が出てから72時間以内に抗ウイルス薬を飲みはじめることが望ましいといわれています。帯状疱疹は50歳以上で発症率が急増し、80歳までに3人に一人が発症します。そのため50歳以上の方には予防ワクチンの摂取が推奨されています。
三叉神経痛
一側の顔面、とくに頬部、上顎や下顎などに数秒の強い痛みが断続的に数分間続き、これが一日何回も繰り返します。痛みは、えぐられるような、突き刺されるような、骨まで痛むような激痛で、手で顔をおおってしまいます。触ると痛みが誘発されるトリガーゾーンがあり、食事、会話、洗顔、歯磨き、風などで痛みが誘発されます。50歳代以降の女性に多いと言われています。歯痛と勘違いして歯科治療を受けている例も数多く見受けられます。顔面の知覚を受け持つ三叉神経が脳幹部付近で血管に圧迫されることが主な原因ですが、痛みが持続性の場合には帯状疱疹や腫瘍性病変など可能性も考えます。治療の第一選択はカルバマゼピン(テグレトール®)内服で、高い有効性を認めています。初回内服時はめまいやふらつきを生じやすいので、一日100-200mg程度の少ない量から始め、数日ごとに痛みが緩和するまで増量します。肝機能障害や血球減少などの副作用を来すことがあるため、定期的な血液検査が必要です。また、発疹を生じた場合にはすぐに内服を中止します。プレガバリン(リリカ®)の有効性も認められています。内服治療で十分な疼痛緩和ができない場合には、神経ブロックや手術を考慮します。
三叉神経・自律神経性頭痛(TACs : trigeminal autonomic cephalalgias)
顔面の知覚を司る三叉神経の異常により頭痛を生じる一群です。頭痛や顔面痛は片側だけ(一側性)に生じ、同じ側に涙が出る、目が赤くなる、鼻水が出る、まぶたが落ちるなどの自律神経症状を伴います。頭痛や顔面痛の発現には三叉神経求心系の活性化が、自律神経症状には主に副交感神経遠心系の活性化がそれぞれ関与するとされ、短時間の発作が頻回に繰り返されるという特徴があります(持続性片側頭痛を除く)。群発頭痛、発作性片側頭痛、持続性片側頭痛、短時間持続性片側神経痛様頭痛発作などが知られています。海綿静脈洞内圧の上昇、脳主幹動脈の異常、脳腫瘍などが原因となる場合もあり精査を要します。
群発頭痛
短時間・一側性の強い痛みが繰り返し起こることと自律神経症状を伴うことを特徴とする頭痛で、痛みの程度がきわめて強く「目の奥に火箸を突っ込まれたような」などと表現される激痛を呈します。眼窩後部から側頭部や上顎部などが痛むことが多いとされています。持続時間は15~180分で、頭痛と同側に結膜充血、流涙、鼻閉、鼻漏、眼瞼浮腫、発汗、紅潮、耳閉感、縮瞳、眼瞼下垂などの自律神経症状を伴います(発作時の様子をスマートフォンなどに記録していると診断に役立ちます)。片頭痛とは異なり発作中は落ち着きがなく、興奮気味になることが多いという特徴がありますが、片頭痛と紛らわしく、何年も診断が遅れることがあります。20~40歳台の男性に好発し、夜間に痛みます。典型的なパターンでは、15分~3時間の頭痛発作が0.5~8回/日、数週~数ヶ月間出現します。アルコール摂取、つよい臭い、温かい環境などが発作の引き金となります。
急性期治療(発作期)の第一選択はスマトリプタン3mg皮下注で、通常注射後10分以内に頭痛が軽減し、90%以上に有効です。自己注射用のキット製剤を用いれば自宅での治療も可能です。スマトリプタン点鼻液による鼻腔内投与(痛みの反対側へ投与)およびゾルミトリプタン5~10mgの経口投与による有効性が報告されていますが、わが国では保険適用外です。酸素吸入(ファイスマスクで7-10リットル/分・15分間)も有効で、2018年から在宅酸素療法が保険適応となりました。
予防にはベラパミル(ワソラン®)240~360mg/日が用いられますが、効果発現まで1週間程度かかるため、短期間のステロイド(プレドニゾロン60mg/日・5日間、10mg/日漸減・中止)を併用することがあります。塩酸ロメリジンにも若干の予防効果が期待されています(保険適用外)。三叉神経ブロック、星状神経節ブロック、大後頭神経ブロック、翼口蓋神経節ブロックなどの神経ブロック療法が行われることもあります。
発作性片側頭痛
20~40歳の女性に好発する眼球から側頭部の突き刺されるような強い頭痛で、2~30分間の頭痛が1日に何回も繰り返します。発作は頭痛と同側の結膜充血、流涙、鼻閉、鼻漏、眼瞼浮腫、発汗、紅潮、耳閉感、縮瞳、眼瞼下垂などの自律神経症状を伴います。インドメタシンが著効します。
短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT:Short-lasting unilateral neuralgiform headache attacks)
20~50歳の男性に多く、数秒~数分と短い頭痛が1日数回から250回繰り返します。頭痛と同側の結膜充血、流涙、鼻閉、鼻漏、眼瞼浮腫、発汗、紅潮、耳閉感、縮瞳、眼瞼下垂などの自律神経症状を伴います。インドメタシンや酸素投与に反応せずリドカイン静注の有効性が示唆されています。予防ではラモトリギン(ラミクタール®)、ガバペンチン(ガバペン®)、トピラマート(トピナ®)などが考えられています。
持続性片側頭痛
片側性の圧迫されるような痛みが3ヶ月以上持続する頭痛で、30歳くらいの女性に多いとされます。頭痛と同側の結膜充血、流涙、鼻閉、鼻漏、眼瞼浮腫、発汗、紅潮、耳閉感、縮瞳、眼瞼下垂などの自律神経症状を伴います。インドメタシンが著効します。
可逆性脳血管攣縮症候群
可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome : RCVS)は脳血管緊張の調節障害が原因と考えられている比較的新しい概念の頭痛です。まだ十分に認知されている疾患とは言えませんが、画像診断される報告例も増加し、まれな疾患ではないと考えられるようになっています。個人的な経験でも年間数例遭遇する疾患という印象です。
症状
症状としては数秒から1分以内にピークに達する雷鳴頭痛やこれまでにない激しい頭痛として発症することが多く、くも膜下出血との鑑別が必要になります。30分程度の両側性頭痛発作を平均4-5回繰り返し、発作の間にも中等度の頭痛が残存するとされます。頭痛は発症2〜3週間で消失します。
性別や年齢
20〜50歳代の女性に多く、男性の場合には30代前半が発症年齢のピークとされています。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などのセロトニン作動薬、点鼻用局所血管収縮薬、妊婦、産褥期、片頭痛の既往などが誘因として報告されています。また、性交、いきみ、運動などが発作の契機となります。入浴やシャワーで雷鳴頭痛を呈する入浴関連頭痛にもRCVSの関与が考えられています。
発症初期には病変の首座が末梢部の細い脳動脈の拡張と攣縮であるため、頭痛の症状はあるもののCTやMRIで異常を捉えられないことも多いとされています。その後、経過とともに太い脳主幹動脈へ変化が移行するとMRAで血管攣縮を認めるようになります。これらの変化は発症から3ヶ月以内に正常化しますが、とくに発症3週間以内では脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などを合併することがあり注意が必要です。
治療について(MRAでの脳主幹動脈狭窄の変化)
治療としては、まず可能性のある誘因を除去すること、血管拡張作用のあるカルシウム拮抗薬の投与などが試みられています。
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第16病日
脳主幹動脈に多発性の狭窄所見(矢印部分)を認める。 -
第30病日
狭窄所見が改善してきている。
いろいろな頭痛(国際頭痛分類 第3版より)
一次性咳嗽性頭痛(良性咳嗽性頭痛)
咳、いきみなどに伴ってのみ誘発されて起こる頭痛。咳嗽のあとに発現し、ほぼ直後にピークに達し、数秒~数分の間で消退する。アルノルド・キアリ奇形Ⅰ型、脳脊髄液圧低下、頸動脈あるいは椎骨脳底動脈疾患、中・後頭蓋窩の腫瘍などが原因となることがある。また、胸部疾患を扱う外来で診察を受けた咳嗽患者の1/5が咳嗽性頭痛であったことが報告されている。
一次性運動時頭痛(一次性労作性頭痛、良性労作性頭痛)
身体的に激しい運動を続けることによって誘発される拍動性頭痛。頸静脈の逆流による頭蓋内静脈のうっ血が関与していると推測されている。
アイスクリーム頭痛
冷たい物質が口蓋または咽頭後壁を通過することによって、前頭部または側頭部の短時間の強い痛みが誘発される。
ポニーテール頭痛
頭蓋軟部組織周囲の頭皮に障害がなく、頭皮が牽引されている間のみ起こる頭痛。牽引が解除されたあと1時間以内に消失する。
一次性穿刺様頭痛(アイスピック頭痛)
局所構造物または脳神経の器質性疾患が存在しない状態で自発的に起こる、一過性かつ局所性の穿刺様頭痛。穿刺様の痛みの80%は3秒以内、頻度は不規則で1日に1~数回。
貨幣状頭痛(硬貨形頭痛)
頭皮の小領域に限定して、くっきりした輪郭で、大きさと形が一定(円形または楕円形で直径が1~6cm)な軽度~中等度の持続性あるいは間欠的な頭痛。持続時間はきわめて多様で、数秒、数分、数時間、数日あるいは3ヶ月以上に渡って持続する。患部には通常、感覚鈍麻、異常感覚、錯感覚、アロディニアまたは圧痛がさまざまな組み合わせでみられる。
睡眠時頭痛
睡眠中のみに、頻回に繰り返し起こる頭痛発作。通常50歳以降で発症するが、若年者で起こることもある。睡眠中の覚醒の原因となるため「目覚まし時計」頭痛('alarm clock' headache)とも言われる。リチウム、カフェイン、メラトニン、インドメタシンの有効例が報告されている。覚醒を引き起こすほかの頭痛の原因を除外する必要があり、特に、睡眠時無呼吸、夜間の高血圧、低血糖、薬剤の使用過多、頭蓋内疾患には注意を払う。
アルコール誘発頭痛、即時型アルコール誘発頭痛(カクテル頭痛)
アルコール摂取後3時間以内に発現し、アルコール摂取中止後72時間以内に消失する頭痛。
遅延型アルコール誘発頭痛(二日酔い頭痛)
アルコール摂取後5~12時間以内に発現し、発現後72時間以内に自然消失する頭痛
カフェイン離脱頭痛
2週間を超えて1日200mg(コーヒー3~4杯程度)を上回るカフェインの定期的な摂取があり、それが中断されたのち24時間以内に発現する頭痛。その後の摂取がなければ、7日以内に自然に消失する。頭痛は100mgのカフェイン摂取により1時間以内に軽快する。
高山性頭痛
頭痛は、通常両側性で、海抜2~500m以上への登山により悪化する。下山後24時間以内に自然に消失する。
飛行機頭痛
飛行機搭乗中にのみ発現する頭痛で、離陸後飛行機が上昇するとき、もしくは着陸する前の下降時に一致して悪化し、飛行機が上昇または下降したあと30分以内に自然に改善する。通常片側性で眼窩周囲の自律神経症状を伴わない殴打するような痛み、もしくは刺すような重症の痛み。着陸態勢中に起こることが多い。
潜水時頭痛
水深10mを超えて潜水中や浮上する際に発現する激しい頭痛。高炭酸ガス血症による血管拡張および頭蓋内圧の上昇が関与すると考えられ、精神錯乱、頭部ふらふら感、協調運動障害、呼吸困難、顔面のほてり感など二酸化炭素中毒症状を伴う。酸素投与により改善する。
睡眠時無呼吸性頭痛
睡眠時無呼吸が原因で朝に発現する両側性、圧迫感のある頭痛で、持続は4時間未満。睡眠時無呼吸発作と並行して悪化あるいは改善する。